2016年12月22日、沖縄県北部にある米海兵隊の北部訓練場の約4000ヘクタールの返還を記念し、日米両政府による式典が開かれた。
日本政府は「沖縄本土復帰後最大規模の返還で基地負担軽減に大きく資する」と強調したが、沖縄にある米軍専用施設のわずか3%が減ったに過ぎない。しかも、返還された土地は米軍が不必要となったものといわざるを得ない。
その理由として、日本政府は米軍が使用するヘリコプターと固定翼機の機能を併せ持つ垂直離着陸機、オスプレイのためのヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)を新たに6つ造って提供したことが挙げられる。返還地にあった既存のヘリパッドでは大型のオスプレイの離発着訓練はできないからだ。
さらに日本政府は宇嘉川河口部とヘリパッドを結ぶ、まるで遊歩道のように整備された歩行訓練ルートも造った。これにより戦艦から揚陸艇で上陸し、森の中を米兵がヘリパッドまで歩き、そこからオスプレイに搭乗するという陸海空の一連の訓練が可能となる。日米両政府は返還という実績だけを強調するが、基地の機能強化だと指摘する専門家もいる。
同月13日、オスプレイが名護市安部の海岸付近の浅瀬に墜落した。一部の日本のメディアや米軍は不時着と伝えたが、海外のメディアは墜落と伝えた。それほどまでにオスプレイは無残に大破した。そして、破損したグラスファイバー製の機体は波で繊維状に細かく砕かれ、周辺の海を汚染した。
墜落事故に対し沖縄県が抗議すると在沖米軍トップは「県民や住宅に被害を与えなかったことは感謝されるべきだ」と声をあらげ、机をたたき反発したという。そして沖縄県の飛行再開停止要求を無視して、事故からわずか6日後には米軍は訓練を再開し、日本政府もそれを容認した。
これを受けて22日の返還式典と同じ日に「オスプレイ撤去を求める緊急抗議集会」が開かれ、故・翁長雄志沖縄県知事は式典を欠席し、集会に出席した。沖縄の米軍基地はいらないという思いと国の対応の乖離を如実に示した1日となった。
2016年9月、国頭村、大宜味村、東村の一帯に広がる亜熱帯照葉樹林がやんばる国立公園に指定された。そして2018年6月29日、国立公園に返還された米軍北部訓練場のうち、約3700haが新たに公園区域として編入されることになった。
国は2018年の夏を目標にやんばる国立公園の世界遺産登録を目指していたが、国際自然保護連合(IUCN)が同年5月、返還地を加えるべきなど推薦区域の見直しを求め、「登録延期」の勧告を出した。それに対しての公園区域の拡大である。
環境省によると、「返還区域において自然環境調査・分析を行った結果、高い林齢の亜熱帯照葉樹林がまとまって存在し、すでに国立公園となっている地域と一体的な風景型式を有していることを確認した」ということだ。
公園区域の拡大に伴い、返還された米軍北部訓練場にあったヘリパッドのLZ-1、LZ-1A、LZ-2、LZ-2A、LZ-3、LZ-FBJは、特別保護地区、もしくは第一種特別地区に含まれることになった。もちろん、米軍がジャングル訓練に使用していた広大な森の多くもそのどちらかに含まれる。
環境省が公園区域拡大を決めたのは、沖縄防衛局による返還区域の調査・除去が終了したことを受けてのことだと思われるが、果たして、きちんと対応したのか、そのことが問われる。
沖縄防衛局は、2017年12月に「北部訓練場過半返還に伴う支障除去措置に係る資料等調査」を公開した。この資料は防衛局のHPから誰でも閲覧することができる。
防衛局は資料の中でヘリパッドから銃用の薬きょうや有刺鉄線など複数の米軍の廃棄物があったことを報告している。しかし、調査・除去報告後に現場を見に行ってみると、ヘリパッドには薬きょうやケミカルライトが放置されたままだった。
返還当初に見に行った時に発見した腐敗して中身が炭素化した一斗缶もそのままの場所にあった。その後も返還地では大量の薬きょうや米軍による廃棄物が市民によって発見されている。防衛局のいう除去がきちんとなされたのか疑わざるをえない状況だ。
また、今回の防衛局の資料の中の「対象地の使用状況」の項目の中に、米軍への照会結果という項目がある。その詳細を見てみると、日本側の質問に対し、米軍の回答は、「記録は保有していない」「文章の提出は差し控える」、さらには「回答しない」というまったく酷いものだった。
そのような回答にもかかわらず、「米軍が使用していた期間における対象地全域の使用状況を把握するため、沖縄防衛局管理部から米軍に対して照会を行なったところ、有害物質の使用や流出事故が発生したことを示す情報は確認されなかった」と結論づけている。
本来であれば、現役、退役軍人の方に聞き取りを行うなど、徹底的に調査すべきではないだろうか。先にも述べたが、環境省が提出した地図を見ると返還区域のほとんどが特別保護地区に指定されている。
それだけ自然豊かな貴重な森をこれまで米軍のなすがままに使わせていたこと、そして返還後も原状回復にまったく協力しない米軍、それに対し、抗議できない日本政府の姿を見ると、憤りを通り越し、この国の主体性のなさに呆れる。
さらに、2020年までに再度世界遺産登録を目指すとし、中川雅治環境相は、「国立公園に編入された(返還)区域の大部分を推薦時に追加することで、IUCNの指摘に対応することになる。早期の世界遺産登録に向けた大きな一歩になる」と、非常に楽観的で現場をまったく把握していないと思える発言をしている。
こうしてやんばる国立公園は一部に薬きょうなどの米軍の廃棄物が多数放置されたまま、オスプレイなどの米軍機が飛び回る米軍基地と広範囲が隣接する異例な国立公園となった。今のまま世界自然遺産への申請を再度するならば、日本の自然保護政策の稚拙さを世界にさらするものとなるのではないだろうか。
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