カンボジア:レンガ工場での強制労働

 カンボジアの国民一人当たりの月平均収入は300ドルほどだが、3分の1以上の人々が1日の収入が1ドル以下と、食料や衣類など人間らしい生活の必要最低条件の基準が満たされていない状態である「絶対的貧困(2021年現在日収1.9米ドル以下)」者である。長い内戦下にあったポル・ポト政権崩壊以降経済は回復し、各地に小さな工場が設立された。そして、より良い生活を求めて農村部から若い労働者が工場周辺に移住してきた。彼らは工場の周囲にオーナーが建てた家に住み、そこには工場を中心とした小さな村ができている。

 朝5時半、地平線に太陽が昇りあたりがほのかに明るくなった頃、モウ(20歳)は目を覚ます。かめに溜めた決して衛生的とはいえない雨水で顔を洗い、同じ水で歯を磨く。そして前日の夕食の残りで作ったお粥をすする。朝食を終えるとすぐに弟のティー(16歳)と妹のヤンタール(14歳)と従兄弟のローチ(20歳)とレンガ工場に向かう。

 工場に着くとモウはレンガを成形する機械を動かすコンプレッサーにガソリンを注ぎ、エンジンをかける。朝の静寂を切り裂く轟音が辺りに鳴り響く。そして成形されて出てきたレンガがつかないように直接潤滑油を手に塗り、ローラーに丁寧に塗り込む。

 それから全員でU字型の金具の先に針金を取り付けた切削機で粘土を切り出し、肩に担いで運ぶ。そうして機械の横に集めて粘土をモウがさらに2キロほどに切り分け、機械に投入していく。

 機械からは4つの穴が空いたカンボジアの伝統的なレンガが次々に押し出されてくる。それをティーが2つずつ取り、リヤカーに積んでいく。60個のレンガを積むと、ヤンタールが乾燥小屋まで運ぶ。ぬかるんだ道を重いリヤカーを引いて小屋までいくのは14歳の少女には大変な作業だ。

 小屋に積み上げられたレンガをそこで1週間ほど乾燥させる。そして、十分に乾燥したレンガを巨大なドーム型の窯の中に積み上げ、15日間火を落とすことなく焼きあげる。

 その後、火を落としてから10日間ゆっくりと冷却させると完成だ。工場ではレンガの成形、焼き、窯からの取り出し、そしてレンガを搬送する4つのグループに分かれていて、家族単位でそれぞれの仕事を担当している。窯からレンガを取り出す作業は比較的簡単なので女性が担っている。

 粘土を採掘した後の穴には自然と雨水がたまり、あちこち小さな池ができている。その水は粘土が溶け出し、茶色くにごっているが、そこで労働者は体を洗い、その水を生活用水として利用している。

 モウたちは1日に3000から4000個のレンガを作っている。レンガ一個あたり9リエル、1日にして8米ドルから10米ドルほどの賃金を得る。雨季になるとレンガの生産量は落ちるので、日当は減ってしまう。そのわずかな賃金でモウは妻と1歳になる息子、兄弟3人と2人の従兄弟を養わなければならない。

 もちろんそれだけの収入で生活していくのは困難だ。モウはオーナーから結婚式の費用を借り、身内の誰かが病気にかかった時には薬代を借りる。8年間でその借金は750米ドルまで膨らんでしまったという。モウはいつか生まれ育った村に帰ることを夢見ているが、借金を返すまで工場を離れることはできない。こうして、モウは借金を盾にこれから先も工場で低賃金労働を続けていくことを余儀無くされる。(2006年)

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